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Blue Period
SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

好きなコトを好きだと言うこと。頭に隠したモノを形にすること。
それは一見カンタンなようでいて、すごく気恥ずかしいし勇気がいる。
でも、『*好きなことをする努力家は最強』でもあるー。(*『ブルーピリオド』 第一巻より)

美術が好きな自分をなかなか認められず、
認めてなお葛藤する矢口八虎(やぐち やとら)を中心に、
美大受験からその後の成長を描く青春漫画『ブルーピリオド』は、
漫画家・山口つばさ先生が「恥ずかしい!」といつも心で叫びながら、
”自分の頭にある見えない部分“を漫画として表現し、
繊細に描くことで読み手を惹き込んだ話題作だ。
2020年には『マンガ大賞』で大賞を受賞。
今年8月には実写版映画の公開も予定され、その人気は留まることを知らない。

2024年8月2日(金)に発売されるコラボレーション•コレクション
『ブルーピリオド × コンバーストウキョウ』のために、山口先生が描き下ろしてくれたのは、
主人公・八虎と、友人・ユカちゃん、橋田の3つのイラスト。
このエネルギッシュなイラストでコレクションを作るなら、
コンバーストウキョウはどんな風に“好き”をのせていけばいいだろうー?
完成したコレクションのフルラインナップを前に、
同作品の大ファンでもあるコンバーストウキョウのプレス・中島が、
山口つばさ先生にスペシャルインタビューを敢行!

どうやって作ったの?どういうこと!?
コンバーストウキョウは「謎の技術」が魅力

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プレス中島(以下 中島):『ブルーピリオド』ではどのキャラクターもそのキャラクターらしいファッションをしていて、本当に素敵です。わたしも作中の服に影響を受けていますが、描くお洋服のインスピレーションは何か参考にされていますか?

山口つばさ先生(以下 山口先生):え、本当ですか?!ファッションはむしろ、自分ですごく課題に感じているところ。矢虎のTシャツにプリントを入れたかったけど、締め切りに間に合わないからまた真っ白になっちゃったなあ、なんてこともたくさんで。歴史があるから勉強もしないといけないし、考えると気が遠くなる。もっとファッションに興味を持った方がいいなあ、なんて思っていたときに今回のコラボレーションのお話をいただいて、コンバーストウキョウさんのお店を見に行ったらめちゃ可愛い!ってなって。実は今日の服もそうなんですが、たくさんお買い物をしました。

中島:着てきてくださったんだ!って、本当に嬉しかったんです。コンバーストウキョウのどんなところを魅力に感じてくださったのですか?

山口先生:何て言ったらいいのか、これどうやって作ったんだ?!みたいな、”謎の技術”を魅力に感じます(笑)。不思議な感じにデフォルメした星をニットに編み込んでいたり、レースの透かし編みで袖に星を並べていたり。カスタムしたお洋服みたいで、見ていてとても楽しいなあって。カジュアルだけどフォーマルなところもあって、でもフォーマルすぎなくて。どんな場面でも着やすい。もしキャラクターに着せるなら、やっぱり矢虎が一番似合うかな。オーバーサイズでカジュアルで、古着っぽいかすれたプリントのアイテムもある。ユカちゃんもファッションが好きだから好きかもしれない。

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中島:ありがとうございます!今回のコラボレーション・コレクションはいかがですか?山口先生が一番好きなアイテムがあれば教えてください。

山口先生:全部好きですね(笑)Tシャツも普通にイラストをプリントしたのかなあ、と思ったら、一度別の生地にプリントしてから縫い付けていて。ニュアンスがむずかしい色味やグラデーションを使って描いてしまったけど、こんなに綺麗に色が出ていて。青の色合いもすごく綺麗。

中島:Tシャツは絵画の感じにしたくて、本当はキャンバス地にプリントしてから縫い付けたかったんです。でも、試作してみたら着るには硬すぎて(苦笑)。少しソフトな生地にして、絵画っぽい雰囲気は残しました。原画の繊細な色合いを再現したかったので、プリンターも絶妙な色味が出せるものを探して。

山口先生:すごい!いろいろ汲んでくださってありがとうございます!本当に全部好きなので、これが一番好きというのはむずかしいけど、一番びっくりしたアイテムはトートバッグかなあ?プリントじゃなくて、織りで絵を表現していて、どういうこと!?って。こんな細かい線や絶妙な滲みが、織りで出せるんですね。

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中島:謎の技術です(笑)。洋服の襟ぐりについているタグを“ネーム”というんですが、ネームの技術でイラストを織りました。青・黒・白の3色画ながら原画に近づけるため、実際に使った糸は絵によって5〜8色。漫画の世界観を追体験していただきたかったこともあって、今回は「展示」という表現にこだわりました。八虎たちも展示にこだわっていますし、わたしたちも洋服やアイテムの上に、原画を飾っているような気持ちで作りたくて。

山口先生:嬉しいなあ。洋服だけではなくて、ノートやポスターまであって楽しい。

中島:ノートは紙を真っ白にして、絵が描けるようにしました。ポスターはサイズが大きくて迫力がすごいので、まるでアート作品にも見えてきて。山口先生は、八虎たちと同じ東京芸術大学油画科の出身ですが、1枚画を描く時はやっぱり、漫画ではなくアート作品を描くような気持ちですか?

山口先生:アートに見えるか漫画に見えるか?は受け手の感性なので、どちらに見えても良いと思っているんですが、描き手としては漫画とアートは別の文脈のモノ。美術の絵を描くのとはまったく違いますね。今回のコラボでは、現実感と漫画の両方を感じられたら熱いなー!という思いがあって、ファッション写真とコラボしているみたいな、ファッション写真に見えたらいいなあって。漫画ではあるけど、リアルも同時に感じられるように。漫画家としてすっごく楽しくノリノリで描きました。

中島:イラストを何パターンも考えて送ってくださったのでびっくりしました!こういうのを描いて欲しいっていう我儘なリクエストも送っていたんですけど、山口先生がオリジナルで提案してくださったファッション写真のアイデアを見て、一目でみんな「熱い!」って。一瞬で決まりましたね(笑)。

山口先生:これに決まったらいいなー!って心の中で思っていたので、伝わってすごく嬉しかったです。

本当にいるのかな?もしかして生きてる?
リアルじゃないけどリアルに感じられるのが大事

中島:ブルーピリオドは今回の描き起こしだけではなく、本当にキャラクターが実在しているようなリアリティがありますよね。実際の写真と漫画を組み合わせた日常をユカちゃんがインスタグラムで発信していたり、心情描写に胸をえぐられるようなリアルさを感じたり。

山口先生:自分自身、そういうのが好きなんですね。このキャラクター、本当にいるのかな?もしかして生きてる?って、錯覚や想像ができるようなものが。漫画だからリアルじゃなくていいし、リアルじゃないから面白いっていうのが漫画なんだけど、 “リアルじゃないけどリアルに感じられる”っていうのがブルーピリオドでは大事なのかもしれない。キャラクターのセリフも担当さんと話して、こんなこと現実で言う!?みたいなことがないように。実在の場所も出てくるので、適当なことを言えないなっていうのもあるし。

中島:自身の芸大受験の経験や芸大生活を参考にすることも?

山口先生:八虎と自分は経歴が似ているところもあるけど、自分の体験だけでは同じになってしまうし、そんなに多くを体験していると思っていないんです。心情描写は芸大からの友人や、世田介君の絵を提供してくれる方に聞いてみて参考にすることはありますね。絵が上手い、上手いって言われたらどう思う?とか。八虎は昔は少し似ていたのかもしれないけど、今は遠くなっちゃった。時間と共に、自分がどんどん八虎と離れていってしまったというか。

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中島: 今回は、初登場のみなさんのサインもありますが、とても個性的でしたね。どのようにお願いしたんですか?

山口先生:そうですね。八虎・橋田・龍二のそれぞれに今回の企画の意図を伝えた上でお願いしました。ユカちゃんは、別でサインを書く機会があったようですが、八虎くんは照れながらうんうん唸りながら書いてましたね。橋田くんは特になにも言わずさらっと書いてくれました。

漫画を描くって恥ずかしい!
でも、1個づつやってハードルを下げていく

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中島:今回のコラボレーションもそうですが、“ファッション×漫画作品”がひとつの文化として定着しつつあります。山口先生にとって、漫画とファッションのつながりとは?

山口先生:漫画は、“人が入りやすくなる入り口”になりえるなあと思います。漫画ってストーリーもあるしイラストレーションもあるし、構成要素が多いので、別の文化同志を接続する力があるのかもしれない。融合とは違うけど、漫画が間口を広げられるかもしれないって。

中島:コラボの発売に合わせ、コンバーストウキョウ宮下パーク店では、学生や若手アーティストたちの作品も展示されます。皆さんに、ブルーピリオドをイメージした作品を制作してもらったのですが、自分の漫画をインスピレーションに新たな作品が生まれたり、漫画に影響を受けて芸大を目指したりする若い人たちが増えたりしていることをどう感じていますか?

山口先生:変な感じ。すごく変な気持ちですね。数年前までは、自分や自分の作品がそんな風に思ってもらえるなんて、まったく想像できないことだったので。でも、ブルーピリオドの成り立ちもそうだし、いつか恩返ししたい、漫画で美術の世界への橋渡しをしたい、とずっと思っていたから、もしそれが少しでもそうなっているとしたら嬉しいなあ。

中島:若手アーティストやブルーピリオドのファンに、美術への入り口になるような名画やアートのおすすめはありますか?

山口先生:モネとか印象派ですかね。印象派は日本人に人気ありますし…。私自身、昔はお母さんが持ってるバッグにプリントされているようなイメージだったのが、実際に見たらまったくそうじゃなくなった。印象派の絵は錯覚を使うこともあって、例えばオレンジを表現するのにオレンジ色を使わないで、赤と黄色を点々と置いて、目の中で混色してオレンジに見せていく。絵を見ている感覚じゃなくて、その中にいるようなトリップ感があるなと感じます。見られる機会がたくさんある絵なので体験してみてください。

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中島:八虎も作中で“自分の好き”を出すことに葛藤しているように、自分らしくあるのはすごく勇気がいることですよね。漫画も美術も、自分らしさを極めていくという点では共通していますが、山口先生が自分らしさを表現するために、大切にしていることはありますか?

山口先生:自分が想像している自分っぽさを追うことより、楽しい方を取るように。自分らしさを意識しすぎず自分が楽しくしていると、「山口さんらしさが出ていていいなあ」って言われることがあって。自意識が結構強い方なので、あー今、めっちゃもう一人の自分がいるなあって時がたくさんあるんです。漫画で自己表現している自分をもう一人の自分が見ていて、「それ恥ずかしい〜!」って。今は少し慣れましたが、目の前で漫画を読まれるのとか、「ここのセリフ好きなんだよね」ってセリフを読み上げられるのとかすら好意とわかっても緊張してました。本当にいつも、恥ずかしい!恥ずかしい!って思いながら描いていて。でも恥ずかしくても一個づつやって、少しづつハードルを下げていく。だけどそのストレスが、それを続けるストレスを上回るなら時には自分らしさを隠すことがあってもいいかなあ、とも思っています。

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山口つばさ (やまぐち・つばさ)
東京都出身。
東京藝術大学絵画科油画専攻卒業後、四季賞2014年夏のコンテスト佳作受賞。2016年に新海誠監督の作品『彼女と彼女の猫』のコミカライズでデビュー。2017年から講談社「アフタヌーン」で『ブルーピリオド』を連載中。同作は2020年には第44回講談社漫画賞で総合部門を受賞。2021年10月にテレビアニメ化、2022年3月に舞台化され、2024年8月に実写映画が公開予定。
電球大好き。

中島望 (なかしま・のぞみ)
コンバーストウキョウのPR担当。販売スタッフの経験を活かしながら日々奮闘中。特技は漫画の速読。
ブルーピリオドの大ファンとして今回のインタビュアーに起用。